FXとポジション
このような動きが本格化したのが2月末で、この時は為替で円急騰となった。為替におけるリスクはポジションであり、円全面安の中で広がっていた円売りが、リスク回収で円買い戻しに転じたわけだ。  ところが、今回はそうなっていない。2月末と異なり、米金利上昇により金利差が拡大しているためとされる。ただし、今回と似たように、リスクプレミアムが急上昇した中でも、米長期金利上昇が起こったのは6月初めだったが、この時ですら、ドル円はさすがに121円割れで円反発圧力が試された。  今回はその動きすらなく、まったくのノーインパクトが続いているが、果たしてこのままいくかは、もう少し注目してみたいところだ。そのように思うのは、依然として金融当局者たちから、信用バブルやリスクへの過信に対する警告が根強く続いているからだ。  実際にそれを裏付けるようなデータもある。ジャンク債とは、ハイリスク資産の代名詞といえるが、そのジャンク債の発行残高が、今年に入ってから前年比で何と50%もの大幅増となっているという。ところが、それだけ発行残高が増えているにもかかわらず、平均利回りは8%程度で、過去の平均10%を下回っているという。 FX取引、FX初心者、くりっく365、FX口座開設、FX資料請求  これは、ハイリスク資産に対してさえ、需要が通常に比べてきわめて強くなっていることを意味している。まさに「リスクの取り過ぎ」への懸念が出されるのも、理解できる根拠だろう。リスクの軽視、鈍感さの反動が入る可能性は、このように見てくるとやはり今後も予断許せないと思う。 6月に入ってから世界的な長期金利急騰懸念が広がった。その中で、「グローバル・インフレ」論が急浮上の兆しを見せている。ところで、これがかりに2003年にかけて広がった「グローバル・デフレ」論の逆アナロジーだとするなら、米利上げが再開し、その中で米長期金利の「行き過ぎた上昇」は、5.5−6%まで拡大するのかもしれない。6月にかけて、米長期金利は一時5.3%まで急騰、その中で世界的な長期金利急騰が起こった。そして、そうした中、「グローバル・インフレ」論が一部で浮上しはじめている。ところで、これは、2003年にかけて広がった「グローバル・デフレ」論の逆アナロジーのようにも見える。  2003年の「グローバル・デフレ」論は、米利下げ局面が異例の長期中休みを経て再開する中で広がりはじめた。当時FRBは、ITバブル破裂対策で2001年に積極的な利下げを推進。しかし2002年は金融政策の変更を一年間見送っていた。ところが、2003年1月、何と1年1ヶ月ぶりに利下げを再開したのである。  こういった中で、当時は以下のようなムードが広がった。1年もの長い中休みを経て、ふたたび利下げが必要になるというのは、かつてないほどの景気と物価の回復遅れが起こっているからだ。それを循環的な要因で説明するのは困難であり、構造的な変化が起こっている。つまり日本だけでなく世界的なデフレ懸念、「グローバル・デフレ」懸念だ。  このようなグローバル・デフレ論が広がる中で、米長期金利は史上最低水準を更新、2003年6月には3.1%まで低下した。しかし、今から振り返ると、それは行き過ぎた金利の低下であり、2003年6月FOMCで最後の利下げが決まると、それを見極めて米長期金利は急反騰に転換。そういった中でグローバル・デフレ論もあっと言う間に忘れられていった。 FX  さて、FRBは昨年6月にそれまで2年間続けてきた利上げを終了した。しかしそれから一年経っても、インフレ懸念は消えず、逆に景気減速懸念の方がこの1ヶ月程度で急速に後退した。これを受けて、年内利下げ論は急後退。そして「グローバル・インフレ」論が浮上しはじめているのである。これは、4年前と逆さの風景に見えないだろうか。もしも、最近の金融市場を取り巻く環境が、2003年にかけてのそれと逆アナロジーになっているなら、FRBは今後数ヶ月以内に利下げを再開するだろう。そういった中で、「グローバル・インフレ」の構造論がいよいよ広がり、米長期金利は5.5−6%まで一段と上昇する可能性がある。  マーケットが本当にそんなふうに動いたとしても、それはある意味しかたないのかもしれない。FRBが、金融政策変更を半年以上の長期にわたって見送った後にあらためて再開したのは、2003年のように利下げのケースではあったが、今回のような利上げケースでは、少なくとも過去20年間なかったという。  つまり、金融関係者の「反射神経」は、利上げから長期的政策変更見送りの後は利下げと考えるのが身についており、それが違うとなれば構造変化が起こっていると考えるのもやむをえないのかもしれない。  しかし、少なくとも2003年の「グローバル・デフレ」論は一時的な現象にとどまった。史上最低水準を更新した米金利低下は、その後の循環的な景気回復を後押しし、金利も急反騰に転じた。 今回の「グローバル・インフレ」論をめぐる展開も似たようになるなら、これから展開するのは「間違った金利上昇」であり、それが景気の腰をいよいよ折り、その後の景気急後退を導くことになるのだろう。大手生保6社の為替ヘッジ率を試算したところ、今年3月末現在で平均46%となった。生保のヘッジ率が平均で5割を割り込んだのは2001年以来6年ぶりのこと。世界的にはリスクの取り過ぎ懸念も取り沙汰される中で、日本経済の長期低迷のもと、極端なリスク回避、「リスク忌避」とさえいえる状況を続けてきた日本の大手生保も、遅ればせながらリスクテーク姿勢が正常化しつつあるようだ。大手生保6社の為替ヘッジ率は、90年代後半は平均3−4割での推移となっていた。ところが、ITバブル崩壊で、日本経済もデフレが深刻化してきた2000年以降は急上昇となり、2003年には平均で7割を超えるところまで上昇した。  しかし、日本経済がデフレ脱却に向かう中で、為替リスクの許容度も徐々に回復。為替ヘッジ率は、2006年3月末には55%まで低下。そしてそれから一年で、さらに1割近くも低下となり、約6年ぶりのヘッジ率が5割を下回る結果となった。 FX  これは、大手生保が為替のリスクテーク姿勢をかつての「平常」の状況に回復させていることをうかがわせる。デフレで、リスク回避傾向がピークに達した当時は、為替リスクを100%回避する「フルヘッジ投資」が流行化した。しかしここ数年で、一定程度為替リスクをとった上で投資する「ノーヘッジ投資」も復活しているようだ。  ノーヘッジ投資の復活や、ヘッジ率を引き下げる「ヘッジ外し」の動きは、為替市場での外貨買い・円売り発生につながる。大手生保の保有外貨建て証券残高は、6社合計で今年3月末現在15兆円、約1200億ドルにも上る。為替リスクテーク姿勢の回復で、数百億ドル規模の円売りが発生、ここ1−2年の円安基調を後押す一因となった可能性もある。  このように、大手生保は、これまでの行き過ぎたリスク回避姿勢が是正されてきたようだが、世界的にはむしろ「リスクの取り過ぎ」すら懸念されはじめている。トリシェ、バーナンキといった欧米の中央銀行トップは、5日おこなわれた衛星回線を通じた国際会議において、それぞれ「リスクへの過信」を警告した。  「リスクの価格への織り込み度合いは現在、歴史的にみても低い水準にある」(トリシェECB総裁)、「リスク管理に対する注意不足は望ましくない」(バーナンキFRB議長)といった具合だ。  こういった世界の潮流からすると、大手生保のリスクテーク姿勢はまだ回復の途上にあり、ヘッジ率の低下にしても、今後さらに90年代後半のような4割を下回る水準へ一段と低下する可能性は注目される。  ただ、かつて為替差損で大きな痛手をこうむった苦い経験があり、しかもなおデフレ脱却の途上にある日本の生保が、リスクテーク姿勢で世界的潮流に遅れるのは当然ともいえる。むしろそんな生保マネーですら、ヘッジ率を平常の状況に戻したということは、世界的な「リスクへの過信」をダメ押すものである可能性も考えられなくない。  とくに、大手生保6社の為替ヘッジに対する取り組み姿勢を見ると、ヘッジ率ゼロが2社、4割台が2社、8−9割が2社といった具合に三者三様。平均的にはヘッジ率低下傾向ということだが、一部には逆にリスク回避姿勢を強める必要があると判断しているところもありそうな点は興味深い。 先週一時円が急反発する場面があった。この円反発をもたらした「影の主役」は信用不安悪化、リスクプレミアム拡大だろう。信用不安の急悪化で円が反発した例としては、今年2月末から3月初めにかけての局面があった。中国発世界同時株安が広がる中で、円は対ドルで120円から115円へ、対ユーロでも一時150円まで急反騰となった。  なぜ、中国株急落で円高になるかといった因果関係が取り沙汰されたが、信用不安悪化でリスクプレミアムが急拡大したことから、為替でもリスクの圧縮を余儀なくされ、それが円売られ過ぎの修正で円急反騰を招いたという理解でよかっただろう。 FX  さて、先週、世界的な金利上昇、株急落となる中で、やはり信用不安の悪化が見られた。信用不安の目安の一つである信用スプレッド(スワップスプレッド)は、先週後半にかけて0.57→0.61%まで急上昇した。  ちなみに、上述2月末の局面における同スプレッド上昇は0.52→0.57%だった。つまり今回は2月末の水準を上回って、一段と信用スプレッドが急拡大となっていたのである。これはリスクプレミアムの拡大をもたらし、リスク圧縮で円の買い戻しが入っただろう。  しかし、信用スプレッドが2月末よりさらに一段と上昇した割に、今回の円反発はこれまでのところ小幅にとどまっている。それだけ円売りが強固だということなのか。それとも? FX  信用スプレッドが急拡大し、円が反騰から暴騰に向かった代表例は、私がよくとりあげる98年10月。この時の信用スプレッドは0.6→0.8%へ急上昇する中で、円の暴騰が起こったのである。その意味では、0.6%を超えつつある最近の信用スプレッドの動きは不気味だ。為替の反応が鈍いのは、リスクに鈍感になっている結果のような気がする。